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Thule Magazine vol.20 ランナー森川 千明Chiaki Morikawa

1987年新潟生まれ。中学から陸上を始め、スターツ、ユニクロで実業団選手として12年間活躍。1500mでは、2016年当時日本歴代9位となる4分12秒75を記録。引退後にフルマラソンを始め、2018年函館マラソンでは大会新記録で優勝、2020年東京マラソンでは日本人8位を記録するなど、国内外の多くのマラソン大会で好成績をおさめる。現在は大会のゲストランナー、スポーツメーカーのアンバサダー、市民ランナーの指導等、多方面で活躍。

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元アスリートの葛藤を活かし、
様々なランニングの
楽しみ方を伝えていく

走ることをお仕事にされているとのことですが、具体的に教えてください

-もともとは実業団に所属して、陸上選手として活動していました。選手時代は主に1500mを走っていたのですが、引退後にマラソンを始めました。いちランナーとしてマラソン大会に出るということでスポンサーがついてお仕事として走ったり、大会のゲストランナーとして場を盛り上げたり、市民ランナーの指導を行っています。コーチ業としては、自分たちで立ち上げたランニングチームでも活動しています。あるマラソンの大会に向けてチームを編成し、1ヶ月だったり6ヶ月だったりある程度の期間を設けて市民ランナーのみなさんと一緒に頑張るんです。私はコーチとして帯同し、合宿に行って練習することもあります。すごく楽しいですよ。そのほか、パーソナルコーチやグループレッスンも行っています。

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走り始めたきっかけは?

-小学生のころから走るのが得意で、校内のマラソン大会でもずっと一番でした。早く走れるというのはやはり楽しいものですし、得意なんだなという意識はあったんです。でも、高学年のときはミニバスに夢中でした。バスケが大好きで、中学生になったら絶対にバスケ部に入りたいと思っていたのですけれど、実際に中学に入ってみると、団体競技の上下関係がちょっといやだなと思って(笑)。走ることが得意だし、ならば陸上部に入ろうかなと。そこからは夢中になって、中学・高校と続けていました。

進路についてはすごく悩みましたね。ただ、自分の生活から走ることがなくなるということに想像がつかなくて。走ることは自分自身の生活の一部になっていたので、高校を卒業しても陸上は続けると決めていました。大学なのか実業団なのか、どこにいくのがベストなのかということを悩みに悩みましたね。同級生たちの就職先が決まってもまだ迷っていて(笑)。高3の冬まで迷って引き伸ばし、実業団に決めました。

実業団での生活は?

-実業団では、基本的には寮住まいで、近くにあるグラウンドで練習します。専用のグラウンドがあるというわけではなく、一般の方も利用できるような県や市が持っているグラウンドで、平日の昼間に走り込むんです。合宿も多くて、暑い時期には高地トレーニングも兼ねて涼しいところに行きます。合宿は短くて2週間、だいたい1ヶ月単位で行くことが多かったです。

朝起きて走って、朝ごはんの後は筋トレして、お昼食べたら午後の練習といった具合で、本当に走るだけの生活でしたね。すごく恵まれた環境ではあるのですが、本当に走るだけなので、息抜きはあまりなくて。土日はお休みでしたけれど、ギュッと狭い世界にいるという感覚はありました。

最初に入ったチームは、そんなに強くはなかったので、みんなで力を合わせてトップを目指して頑張っていこうと。とはいえ、仕事として走っているわけで結果を出さなきゃいけないとか、プレッシャーもありました。

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まだ18歳ですもんね

-若かったのもありますし、当時は余裕がなかったかな。今になってみると、力の抜き方を知っていたらもっと楽しく走れたのにと思います。実業団にいた頃は正直走ることがしんどくて、7年目に一度引退しているんです。「あなたはまだできるから戻ってきなさい」と当時の監督が引退後も声をかけ続けてくれて、半年後また同じ会社に復帰しました。

トータルで10年頑張ったところで区切りをつけ、引退しようと思っていたのですけれど、ちょうど監督が変わったりして練習環境が変わったんですね。ここで辞めてしまうのは後悔してしまうと思い直して、最後の賭けのような気持ちでユニクロのチームに移籍しました。実業団生活は通算12年間です。

引退のきっかけは?

-特別なきっかけがあったというよりは、東京オリンピックに向けて中途半端にやりたくない、葛藤を抱えながら上を目指すことはできないと強く思ったことでしょうか。まだ走れてはいたんです。ただ気持ちがついていかず、燃え尽きた感じです。東京オリンピックの出場に向けて、これまで以上にあらゆることを犠牲にして頑張れるかと自分に問いたときに、これ以上は難しいなと。ちょうど30歳ということもあり、区切りをつけました。

悩みながらも競技続けていたのは、自分の弱いところに負けたくないという気持ちが強かったからです。競技を辞めるイコール自分の弱さに負ける気がしてしまって。でも最後には、弱さがあってもいいんじゃないかなと思えたんですね。同世代の選手で引退している人も結構いましたし、ここまでやれたというのはどこか強い部分があったからだと自分を認めることができた。辛くて走れない時期もあったけれど、逃げずにここまでこられたのは、自分の中に弱さもあれば強さもあるんだということを認められたからだと思います。

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引退後は、走ることが楽しくなったとか

-引退後は一歩たりとも走りたくないと思っていたんですけどね(笑)。そんななかで、市民ランナーとしてマラソンを楽しんでいる知り合いに「一緒に走ろうよ」と誘われたんです。「みんなと一緒だったらチャンレジしてもいいかな」と練習に参加してみたら、たくさんの市民ランナーがフルマラソンにチャレンジしているのを目の当たりにしまして。「あれっ、わたしは競技を20年近くやってきたのにフルマラソンは走ったことがない」と気づいたんです。マラソン経験がないと、その指導もできないですし、思い出作りというか記念に走ってみようという軽い気持ちで、フルマラソン出てみることにました。

とはいえ、最初のうちは現役時代の苦しさがまだ残っていて、すごく辛かったですよ。あるとき「東京マラソンは人気すぎて、一般ランナーは出たくても出られない」という話になったんです。走りたいみなさんは出場できず、走りたくない私には無条件で出られる資格があるという状況がなんだか申し訳なかったりもして。そのときにかけられた「東京マラソンはお祭りだから楽しめばいいんですよ」という言葉には救われましたね。走ることを心から楽しんでいる市民ランナーの方々から影響を受け、走り続けていくうちに、子ども時代の走る楽しさが蘇ってきたという感じです。気づいたら、海外のレースのお誘いがあったり、『ランナーズ』というランニングの専門誌の表紙に声がかかったり、スポーツメーカーの撮影に呼んでいただいたり。いろんな縁がつながって今も走り続けているという感じです。

走ることが純粋に好きな方々に、引っ張ってもらった?

-本当にそうですね。実業団って、走るための時間も場所も道具も提供されるし、本当に恵まれた環境なんです。でも一般のランナーの皆さんは、仕事をしながらシューズやウエアを自分のお金で買い、睡眠時間を削って練習をし、時間やお金を工夫してやりくりしながら、目標に向かって頑張っている。その姿にすごく刺激を受けたというのが、一番大きいです。今でもそうです。みんながいるから走り続けられる。

さまざまな年齢層のいろんな職業の方々と出会って話ができるというのも、実業団時代にはなかったことで、さまざまな学びがあります。その環境にいること自体が楽しいという感覚でしょうか。お話したりコミュニケーションをとったりしながら、市民ランナーのみなさんと走っているのですが、一緒に苦しみを乗り越えることで一体感が生まれるんですね。それが本当に楽しいです。

マラソンは中距離とは走る感覚が違う?

-どちらも持久力と継続的なトレーニングが重要ではあるのですが、マラソンは距離が長いので、途中身体が痛くなったり苦しくなったときに、どう自分のマインドをコントロールするかといった、精神力が試される競技だと思います。スピードはある程度トレーニングを積んでいけばなんとかなる部分もあるんです。きつくなったときに、「もう無理」と思うのか、「ここまで頑張ってきたのだからもうちょっと頑張ろう」と思うのか、どう考えるかで身体が変わってくるんです。ポジティブに考えれば、身体も動くようになりますよ。

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苦しい時代も経て、走ることで得た人生観はありますか?

-物事がうまく進まないときこそ、自分を見つめ直し、弱さを認めることです。 競技をしていて結果が出ないと、監督の指導が悪かったとか、周りのせいにしたくなるんです。地元・新潟で日本選手権があったときのことですが、家族や友達も見にきてくれるし、どうしても結果を出したいと意気込んでいたんです。その前年に初めて表彰台に上ることもでき、調子もよかったですから。でも実際は全然走れず、結果を残せなかった。自分でも結果に納得できず、不貞腐れていまして(笑)、「やりたい練習をコーチがやらせてくれなかった」とか「コーチのせいで走れなかった」などと家族に愚痴っていたんです。

そのときに親に言われたのが「あなたを走らせないために作ったメニューじゃないでしょ。よりよい走りにするためにはどうしたらいいか考えた結果の練習じゃなかったの?」という言葉。人のことを言う前に自分はどうだったのかと、はっとして。自分の身体のこともトレーニングも十分わかっていたはずなのに、最後の最後で遠慮してしまった、ここだけは譲れないと強く主張しなかった自分が悪かったのだと思い至りました。

自分の意志をしっかり通せばよかったと?

-そうですね。それでダメなら自分で納得できますよね。指導しているランナーのみなさんにお伝えしているのは、人間だから常に頑張れるというわけではないし、トレーニングしたくないときがあってもいい、そういうときは休めばいいということ。ただ外的なもののせいにして自分を振り返らずにやるのではなくて、今日は自分に負けちゃったなと認めないといけない、自分の弱さも認めることが強くなることだと。私個人としては、今は早く走りたいというよりも、人間的に成長したいなという思いが強いです。

THULEを使ってみて

-このThule Lithosのバックパックは毎日のように使っていますよ。実は、今日はここまで40分くらい自転車を飛ばしてきました。背中にぴったりフィットするから荷物が多くても重さを感じづらく、安心して使えるし、自転車でも快適です。合わないリュックだと背中が引っ張られている感じがして、肩や背中がガチガチになってしまうんです。背中が硬直すると走りに影響してしまうので、バックパック選びはかなり大事なんです。

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天気がいい日は今日みたいに自転車で出かけることが多いのですが、自転車にカゴをつけていないので、バックパックは必須です。出先でランニングをするので、着替え、ランニングシューズ、お風呂セットは必ず持ち歩いていて、いつも荷物はパンパン。パソコンを入れるスペースやいくつものポケット、鍵を入れるのにちょうどいい場所もあって、重宝しています。以前鍵をなくしたことがあり、大変な思いをしましたから(笑)。走るときや自転車にのるときはサングラスも使うので、出し入れしやすいところにポケットがあるのもポイントが高いです。

見た目以上に荷物が入るし、モノを詰め込んでもパンパンに見えず、コンパクトでシュッとしたイメージをそのままキープできる。機能性が充実しているのに、アウトドアすぎなくてスマートなのはさすがだと思います。フラップの内側にバックルがついているのは防犯のためと聞きましたけれど、細部まで配慮が行き届いていると感じますね。今日のようにカジュアルでスポーティな服を着ることが多いのですが、服との相性がすごくいいので、組み合わせなどを考えずともさらっと持てるところも気に入っています。

たしかに、16Lのバックパックに収まっていたと思えない荷物の量です(笑)。

-着替えはTHULEの圧縮パッキングキューブの小サイズに入れています。これがないと始まらないというくらい便利で、必ず持ち歩いています。サイドにテンションがついていて広がるから、めちゃめちゃモノが入るんです。着替えやタオルを詰め込んで「これ以上小さくならないー」と思っても、ファスナーはしっかり閉まるし、容量が小さくなる。まさに圧縮袋みたいな感じ(笑)。使っていると「便利そうだね。それどこのブランド?」って聞かれます。ひとつ大きなサイズは、合宿など泊りのときに使っています。

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今後の展望を教えてください。

-競技をしていて悩んでいたのが、結婚や出産のタイミングです。オフィス勤めの方で同じ悩みを抱えていらっしゃる方も多いと思いますが、どうしたってキャリアを中断せざるを得ない。ある友人は、「出産後は体力も落ちて、それまでとは同じようには走れないし、必要とされていない気がして孤独を感じる」と話していました。私自身は、引退してしばらく経つのにいまだに走りに記録を求めてしまう部分があって、競技から脱せていないと感じることがあります。妊娠や出産であれキャリアチェンジであれライフステージが変わった後も、走ることを純粋に楽しめたらいいのにと強く思うんですね。どんな人でも自分の変化を受け止められるように、走ることに選択肢を増やしたいな、と。そんなときに出会ったのがランニング用のバギーです。

「バギーに赤ちゃんを乗せて走るなんて大丈夫?」「危険だからやめてください」と言われることもありますが(笑)、きちんとジョギング用に作られているものを選べば安全です。いまはいろいろなメーカーから出ていますよね。重くて力いっぱい押さなければ進まないタイプもありますが、THULEのジョギング用ベビーカーはものすごくなめらかにすっーと進むんです。バックパックと一緒で軽く感じるし、走っていて気持ちがいい。いつものランニングとは違う楽しさがあります。

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近頃は駒沢公園や河川敷などでバギーランをしている方を見かけるようになりました。とはいえ、公道ではやはり難しい。自転車で都内をウロウロしながら「こういうところは走れないな」とか「気軽に走れる場所ないかな」と考えていたんです。

そんなときに、スポーツイベントを企画・運営するお話があり、バギーランを提案したところ賛同していただけて、お台場でバギーランの大会を開催しました。実際に赤ちゃんがいらっしゃる方もたくさんいらしてくれまし、「興味はあるけれどやれる場所がなく、試す機会がなかった」とおっしゃる方も多く、みなさんとても楽しんでくださったんです。広くて開放的な遠くまで見渡せる広場で、気持ちよかったです。各々が速さを競わず、純粋に走ることだったり、ママになって赤ちゃんと一緒に走ることを楽しんでいて。一般的なマラソン大会とは異なる楽しさを感じてもらえたのではないかと思い、嬉しかったですね。今後もバギーランを軸にして、ライフステージが変わっても楽しめる、新しいマラソンの形を追求していきたいと思っています。

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  • パソコン:MacBook Air
  • ノート
  • キャップ:lululemon
  • スマートフォン:iPhone
  • 自宅の鍵
  • 名刺入れ:BOTTEGA VENETA
  • ペンケース:タイで購入
  • ボティオイル:BULY
  • イヤフォン:AirPods
  • 財布:LOEWE
  • メイクポーチ: lululemon
  • サングラス:Oakley
  • フレグランス:LOUIS VUITTON
  • 洗顔フォーム:CLAYPATHY
  • マウスウォシュ:Okina
  • ボディソープ:MOLTON BROWN
  • スキンミルク:BioMedi
  • クレンジング:Bioré
  • 日焼け止めスプレー:KOSÉ
  • ランニングシューズ:ASICS
  • ポーチ:lululemon(化粧品用)
  • タオル:lululemon
  • ポーチ:Thule Compression Packing Cube Small
    (トレーニングウェアや着替え用)
  • バックパック:Thule Lithos Backpack 16L

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